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快適研究コラム「友達のリスト」

 クリスマスイブの午前中、年賀状の投函がピークを迎える。年内最後の祝日を「賀状書き」にあてている人は多いだろう。それにしてもファミリー年賀状の多くに、レオ4歳、ゆうな1歳8ヶ月……と、会ったことのない子どもたちの顔写真が並ぶ。本人の顔を忘れてしまいそうな「賀状の友」から、ある年の始め、会いたいと連絡があった。多忙な上に頸椎を痛めていて、気軽には出歩けない事情を伝えたが「独身時代の大事な友達」「会って疲れを取ってあげたい」との気合いに押され、時間を作った。

 再会したカフェで聞かされたのは、すばらしい調理器具と健康食品の説明、成功者とかいう知らないサーファーの話だった。「一緒に成功したい」と話す間もやたらと携帯電話を気にし、数年ぶりというのに、あっさり去って行った。つまり、ネットワークビジネスの勧誘だった。

 久しぶりすぎるのに「すぐ会いたい」。これほど怪しい誘いはない。しつこい勧誘が続くうち、友の名は心の賀状リストから降格し、やがて過去の人となった。進化生物学者のロビン・ダンバー氏の説によると、人が信頼関係を維持できる人数はわずか150人なのだ。

 一年前の年明け、ジュディ・オングに似た年上の友人から「また一緒にソウルへ行きたい」とお誘いがあった。学生時代のバイト先のオーナーで、年齢は20歳以上離れているが、就職してからも一緒にドライブをし、話題の飲食店を訪れ、道中で仕事や家庭の話を聞くうち、いつしか友人になっていた。「先生」と呼ばれる職種なので、自信家で自己中心的だったが、それは恵まれて育った人だけに許される愛すべきキャラクターでもあった。
 ただ、とてもパワフルで眩しいので、こちらも絶好調でないと穏やかに楽しめない。もちろん何かを売りつけられたり勧誘されたり、お金儲けのカモとして扱われたことは一度もない。時々一緒に旅をして、旅先での笑顔が年賀状になって届いた。その彼女からのいつになく熱心な誘いを、当時元気が枯れていた私は「また夏にでも」と断った。

 彼女からの年賀状は、もう届かない。夏前に突然入院し、「痩せすぎて、もう誰にも会えない」というメールを受け取った。そして先日、そのまま逝ってしまった。「大事」とか「友達」とか「好き」とか「ごめんね」なんて言葉は、一度も交わさなかった。でも彼女は永遠に、私の150人のリストのひとりなのだ。沖縄の浜辺のカフェで、ソウルの街角で、明石海峡を渡る橋の上で、一緒に過ごした時間が折々に湧き上がり、話しかけるだろう。いつか、また来世で、また一緒に過ごしましょうね、と。

(了)

※文:真柴マキ(ウエルネスジャーナリスト)/2011年情報誌掲載